ライブ感想
2020/8/15、水戸ソニックにて行われたBeat Burn ch93というライブを見る。
コロナ禍のためYouTubeのライブ配信越しだが、とても大変満足できるイベントだった。
まずは「カメラワーク」。ライブ映像によくある固定カメラの映像ではなく、多様なアングルからの映像が映し出され、臨場感のある場面展開がなされていた。まるでライブDVDを視聴しているかのようなクオリティで、自分の視点のみからしか見ることのできない生ライブとは違う価値を創り出せていた。
次に「演出」。転換時の静かに流れるBGMから一転、暗転したのち迫力のあるSEがドドンと鳴り、黒背景の中からバンド名が浮かび上がってくるのは、次のバンドの始まりがビシビシと伝わってきて、見る者の心を高ぶらせる。これもまたライブ配信ならではだ。
最後に音質。かつてYouTubeなどにあったライブ映像はどこも映像もライブ音も割れに割れて見るに堪えないものが多かったが、昨今の設備の向上の賜物か、その手のストレスとは一切縁がなかった。強いて言うならば、もっと音量が大きくしてほしいところではあった。僕の設備でできる限りの最大音量まで上げたが、求めていたような生ライブ時のような骨髄に響くレベルには至らなかった(勿論、生ライブではないのでそれを求めるのは酷な話だが)。
これがYouTubeで無料で配信されるというのだから驚きだ。このクオリティに敬意を称して、ライブ運営に少々の投げ銭を、kidonoには通販でのCD購入を、UHNELLYSにはBandcamp越しに少し色を付けての音源購入をした。
思索
さて、石黒正数著のネムルバカという漫画をご存じだろうか?
<あらすじ>
大学の女子寮で同室の<先輩>鯨井ルカ&<後輩>入巣柚実。バンド活動に打ち込む先輩は、いつも金欠ピーピー状態。これといって打ち込むもののない後輩はバイトの日々…。ぬるま湯に頭まで浸かったような、でも当人にはそれなりに切実だったりもする<大学生>という不思議な時間――。ぐるぐる廻る青春のアレやコレやを描いた大学生日常ストーリー!
僕は本日のライブを見たうえで、これほどまでのクオリティの仕事をこなしている運営・表現者の方々の存在がもっと世間に認知されないのはおかしいと改めて感じていた。もともと好きな音楽が知られていないのは慣れっこではあるのだが、十数年単位のこの感覚とのお付き合いに未だ良い落としどころは見いだせていない。そんなことを考えているときに、ふとこの漫画に出てくるある台詞が思い浮かんだ。
以下ネタバレとなるのだが、簡単に背景を説明すると、バンド活動に打ち込むこと先輩の鯨井ルカにメジャーデビューの話が持ち掛けられるシーンでの、レコード会社の担当とプロデューサーのやりとりである。
担当
「ただ欲しいのはバンドじゃなくてキミひとりなんだよ」
プロデューサー
「CDも聴かせてもらったけど…あれじゃ何年やっても売れない」
「悪くはないよ、ただし」
「自分の耳を頼りに探し、自分の耳で聴き、ちゃんと自分の感想が持てる」
「ごくごくごっくわずかな人にしかウケない」
ー石黒正数「ネムルバカ」p.162
的確だ。日本の音楽シーンをただただ浪費するだけの人々を表すにはあまりにも的確なやりとりだ。だから僕はこのやりとりが心底嫌いだ。良いモノを見つけたときに、いつもこの台詞が浮かんで言いようのない気持ちになる。
どんなに素晴らしい表現をしようと、それが届くかどうかは消費者次第だ。残念ながら、今は届きづらい消費者が多い時代にあり、この漫画の中では演出側もそれを理解している。これはきっと現実でも同じなのだろう。
では、この「自分の耳」で動けない人々はどうやって様々なカルチャーと出会っているのだろうか?ただテレビで流れる音楽に惹かれたり惹かれなかったりするだけで、能動的に探すということはないのだろうか?能動的に動くことばかりをしてきた僕にとってはまったく理解できない感覚だ。どんなに技術が進み、情報が消費者に届きやすくなろうとも、僕のこの気持ちは解消されることはない気がする。消費者の元に更なる余力と時間が分け与えられて初めて、彼らの価値観を変えられるかもしれないチャンスが巡ってくるのだろう。
結論、多数派がダメならば、少数派が表現者たちを支えるしかないのだ。自分の軸を持つ自分たちが、いつかきっと素晴らしい表現者たちが世間的な評価も得られるような時代になるときに備え、1秒でも長く表現を続けてもらえるように、彼らに声援を送り、作品を買い続ける。
だから僕は音源購入も投げ銭も躊躇わないし、Twitterやライブで彼らに感想を伝えることを忘れない。
補足
勘違いして欲しくないのだが、ネムルバカはとても良い漫画で、未だに中学生の時に購入した単行本は大切に保管し、時には読み返したりしている。最後に鯨井ルカの導き出した結論に僕は納得しているし、ネットに出回っている「駄サイクル」の画像なんかはネムルバカが出典で、このワードが登場する話もまた面白い。単巻で完結しているので、興味のある方々はぜひご一読を。
またネムルバカに登場するキャラクターたちの関係者が主軸に展開される「響子と父さん」も、同じく単巻完結で読みやすく、読後に新たな発見が見つかる漫画だ。ネムルバカからストーリーが繋がる点もあるので、ネムルバカ読後に読むことオススメ。
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