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人間臭い

kagimurakey
事のあらまし

 映画「ソウル・フラワー・トレイン」を視聴した。


 僕は原作のロビン西作品の事は、映画「MIND GAME」を通じて知った。大学時代に暇すぎるあまり、近所のTSUTAYAへ適当なDVDを借りに赴いたときのこと。見たことも聞いたこともない映画、前知識はなく、期待もせず、とりあえず借りただけだった。それがまさか人生観を変えるような素晴らしい作品との出会いになろうとは思いもしなかった。


 MIND GAMEの原作者がロビン西だ。興味を惹かれた僕は早速彼の著作を買った。それが大阪叙情短編集と銘打たれているソウル・フラワー・トレインだった。MIND GAMEのときから感じていたロビン西の描く人間臭さが気に入り、漫画は今でもMIND GAMEのDVDボックスの横に並べてある。


 ソウル・フラワー・トレインが実写映画化すると知ったのは2013年のこと。きっかけは忘れてしまったが、実写にも合う原作なので映画館へ赴く気満々だった。しかし知ってから公開されるまでの期間に忘れてしまい、気づけば公開終了、円盤などもなく視聴できることそのものを諦めざるを得なかった。


 月日は流れ現在2020年、不意に自分のブラウザのブックマークを振り返るという暇人極まりない遊びをしていたときに、映画「ソウル・フラワー・トレイン」のHPを見つける。円盤化されていないかと検索をしてみると、なんとクラウドファンディングでBlu-ray化プロジェクトがあるではないか。更に深く調べてみると、2019/7/31に1回目、2020/3/31に2回目が終了していた。またもや僕は視聴の機会を失ってしまったとTwitterで嘆いていたそのとき、インターネットが僕を救ってくれた。



 これもインターネットで表現者と消費者が繋がりやすくなった現代のおかげ。お言葉に甘え送っていただくことに。なんとおまけにグッズのタオルまで付けてくださる素晴らしい対応に感激した。


 おそらくクラウドファンディング時に作成したBlu-rayを作成した際の残りがあったため、お声がけいただけたのではないか?と思う。僕のようにもしまだBlu-ray持ってない!欲しい!という方が居れば、Twitterでおねだりしてみるといいかもしれない。残りがあれば手に入るチャンスだし、仮になかったとしても、要望の数が募れば再度クラウドファンディングをしてくれるかもしれない。インターネットがある今だからこそ、こうした融通ができるので、フル活用するべきだ。もちろん我儘を言いすぎて、ご迷惑をおかけすることはないようにだけ注意して欲しいが。


原作漫画の感想

 さて視聴にあたり僕は原作を再読した。再読したならば映画とのギャップ、それぞれの良さを伝えるためにも漫画の感想も簡単ではあるが書いていきたい。



 「MONKEY」、初めて主人公を見たときはMIND GAMEの西君かと思った。ロビン西の作品には在日コリアンがところどころ登場する。在日コリアンのおっさんに主人公は購入したての愛車のMONKEYをパクられるという話だ。最終的におっさんを捕まえ、しばく。おっさんは在日である自分の悲劇を語り自己弁護するが、そんなことはMONKEYとは関係ないと、主人公とその友人たちは説き伏せる。中には同じく在日の友人もいる。全員おっさんのことを理解したうえで、「今」は関係ないと語る。このシーンが本当に人間らしくて好きだ。学校などでさんざん教えられてきた人種差別だが、それを若者たちがきちんと受け止め、前を向いて生きていく様が描かれている。


 「銀河道路走ろう」、真面目なガリ勉君が幼馴染の女の子のバイクに乗せてもらい、警察に追いかけられて将来への影響を気にしたり、おっぱいに触ってテンションが上がったりする話。主人公が幼馴染とくっつくわけでもなく、あくまでたった一晩の青春の思い出として終わる。こういう体験が一度あるかないかで、同じただの真面目なガリ勉君であろうと、人生はきっと大きく変わるのだろうなと思う。


 「ソウル・フラワー・トレイン」、田舎の素朴なおじさんが大阪で暮らし3年も実家に戻ってきていない娘に会いに行き、彼女の仕事について知る話。ロビン西は生き生きとしたキャラクターの表情を描くのが本当にうまい。主人公のおじさんの表情の変化には要注目、大阪の街並みも郷愁を煽られる。案内人を務める白スーツに身を包んだ立花君との最後の別れが僕はとても好きだ。


 「さらば201系」、電車の運転手のおっさんが201系との別れを夢見る話。ロビン西の中央線への愛を感じる。電車と男の友情、これだけ聞くとおかしな話だが、男とは自分が愛するものに友情を感じるものだ。仕事に誇りを持つ男の短くも愛おしい短編。


 「虹のマリちゃん」、自分を含めた家族に数々の不幸が降りかかる。先に不幸に見舞われた母親からマリちゃんは、父・兄・自身を救うために3つの願いを叶える力が与えられるも、マリちゃんのポンコツっぷりのせいで全員死んでしまう。天にいる家族は罵ろうと意気込むも、いざマリちゃんが天に到着した際には家族で抱き合い、一つになって消えてゆく。ポンコツっぷりに笑い、最後の家族愛にほろりとする一遍。マリちゃんと家族との再邂逅は、どんなポンコツであろうと、家族を愛おしく思う気持ちが抑えられない様が描かれている。


 「陸翁」、老夫婦の話。おじいさんは死期迫る中でも気丈に生き、妻ににぎりっぺをかかせたりしている。そんな老夫婦の住居には納屋が一軒、中には新品同様の立派な陸王RTが置かれ、おばあさんが丹精込めて手入れをしている。ある日二人の元に「陸王でーすっ!!」と名乗るとぼけた王様のような格好をした者が現れる。二人の願い事を叶えるということで、願いによって元気になったおじいさんが、おばあさんを陸王に乗せるという話。陸王に乗りながら少しずつ若返り、人生を振り返り、夢見心地に静かに亡くなっていく二人。人間にとって最も穏やかな死に方で、こんな夫婦関係を築きたくなる一遍。思い出を振り返る演出が本当にズルく、思わず涙してしまう。


 総じて、友人・親娘・仕事・家族・夫婦と様々な関係性を通して、人間臭い温かみを感じられる短編集となっている。現在は絶版で中古でしか購入できないようだが、中古市場価格はまだ高騰していないため、今すぐにでも購入を勧める一冊である。


映画の感想

(画像をクリックしたら、映画のHPへ飛びます)


 元が短編のため、どの程度オリジナル要素を味付けするのかと期待と不安がない交ぜになっていたが、杞憂に終わった。まず大きく違うのは案内人の「立花」。原作では白スーツの大阪のおっちゃんだが、映画は真凛演じる20代の女性。主人公の娘と同年代の大阪娘に天王寺を案内させる様は、初めは違和感を覚えた。しかし関西弁に違和感もなく、原作にはないこの大阪娘が抱える年相応の悩みにも惹かれ、いつのまにか彼女は作品に綺麗に溶け込んでいた。


 彼女の父親の遺骨を受け取りに行くシーンは笑ってしまった。平田満演じるお父さんが「お控えなすってぇ!!!」と警察と大阪娘との諍いをぶった切るところ、二人で走りながら「頭おかしいって!!!(爆笑)」と大阪娘が言うところなんて、原作にはないが、まるで存在していたかのような錯覚を覚えた。こうした「ロビン西をリスペクトしたオリジナル要素が詰め込まれており、この点も原作既読者にはお勧めできる。


 僕は作品を鑑賞時にいつも大切にしていることが一つある。それは「表現がそのメディアのみでしか表現できないものかどうか」。これだけだと伝わらないだろうから少し補足をすると、漫画なら漫画にしかできない表現、アニメならアニメにしかできない表現、実写なら実写にしかできない表現をして欲しいということだ。


 漫画は絵であり、シーンの切り抜きのため、形式に囚われない「絵」を描くことで、キャラクターの表情をダイナミックに表して欲しいと思っているし、そこに更にデフォルメを使いこなしていれば僕にとってはもう最高だ。


 アニメはシーンの切り取りだった絵に動きをつけることができるので、漫画で脳内補完をしたダイナミックなシーンが思いっきり描かれていると良い。声が乗せられることでさらなる深みを与えられるキャラクターや、漫画のコマとが違い、1画面で描かれる工夫なども観どころの一つである。


 最後に実写。実写が一番差別化するのが難しいと常々思う。なぜなら白紙から自由に描ける絵とは違い、実物を利用するため、表現できることが限られてしまうからだ。だからこそ、実写特有のリアルさは唯一無二だ。現地に赴けば、実写ならば同じ世界を見ることができる。そこに息づく人々の表情、小さな機微、ここが何よりも僕が実写を観る際に重要視するポイントだ。


 本作は登場人物たちの小さな表情の変化がビシビシと伝わってくる。最後にお父さんと娘が階段の踊り場でタバコを分け与え、吸うシーンが特に印象的だ(これももちろん原作にない)。タバコはこうした、人と人が心を通わせるシーンを担うときに重要なファクターだと改めて思う。親娘二人で前を向いている様が伝わってくる。


 総じて、原作ではあくまで脳内補完していたシーンが、実写では他のキャラクターたちとともに追加で描かれており、「ソウル・フラワー・トレイン」という作品への理解を、別の角度からさらに深めることができる素晴らしい映画だった。


 映画は現状はAmazonプライム・Netflixなどの配信サイトでは見れず、円盤もクラウドファンディングのみのため、レンタルを通じた視聴も不可だ。気になる方はTwitterの@sftmovieでの情報を要ウォッチすることを推奨する。もしかしたらBlu-rayを僕のように温情で購入できる機会をいただけるかもしれないし、あるいはどこかで再上映される情報が流れるかもしれない。そのときは原作を一読のうえで、ぜひともご視聴あれ。

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